チーム発足わずか7年のチームが無敗でブンデスリーガ首位に浮上
2015年-2016年シーズンに話題をさらったサッカー界のニュースといえば、プレミアリーグでまさかの優勝を果たした日本代表FW・岡崎選手所属のレスター・シティ。そして現在サッカー界で大きな話題になっているのが、2009年に飲料メーカーのレッドブルが買収し、発足からまだわずか7年、今シーズン初めてサッカー大国のドイツ・ブンデスリーガ一部に昇格したばかりという新興チーム、RBライプツィヒ。
ブンデスリーガ第11節を終えて8勝3分けの負けなしで勝ち点27、現在それぞれ24、21のバイエルンミュンヘン、ボルシア・ドルトムントを抑えてまさかの首位に浮上しています。昇格チームの開幕からの無敗記録としてはブンデスリーガの新記録で、現在もレコードを更新中。サッカー大国ドイツでも過去に例を見ない最大のサプライズ・チームとして旋風を巻き起こしています。
誰もが知るビッグネームが存在しないのに、確かな実力とプレーの落ち着きを持ち、驚異的な力で躍進するRBライプツィヒ。昇格そのままの優勝もありうると目される、世界が注目する新たなサッカーチームの正体とは!?
5部リーグからスタートし、2016年-17年シーズンからブンデスリーガに昇格
RBライプツィヒはその名の通り、ドイツ東部にあるザクセン州のライプツィヒをホームタウンとするチーム。ベルリンの壁崩壊、東西ドイツ統一の発端となる市民運動の発祥にもなった歴史的背景を持つ都市で、人口は旧東ドイツ地域ではベルリンに次いで2番目の大きな規模を誇っています。
RBライプツィヒはスタジアムの収容人数が5,000人程度だった5部の弱小クラブ・SSVマルクランシュタットをレッドブルが買収したことで発足し、その強力な資金力によって2012年頃から急速にチーム力が向上し、2015年-16年シーズンにブンデスリーガ2部リーグを2位でフィニッシュし、1部リーグ昇格を果たします。
レッドブル運営のサッカーチームとしては日本代表の南野選手が所属するレッドブル・ザルツブルクを含めて4チーム目。しかしブンデスリーガのプロサッカークラブ運営のルールとして企業名をチーム名に入れることができない(一部例外あり)ため、「RB」はレッドブルの頭文字ながらRasenBallsport(芝生球技)という名称だとして規約への抵触を回避したチーム名になっています。
現在のホームスタジアムはかつて2006年ワールドカップでも使用された約42,000人収容のツェントラールシュタディオンをネーミングライツで改名した「レッドブル・アレナ」。しかしあまりの躍進のため、さらにスタジアムを改修し大型化する計画もあるそうです。
若手選手を主体とし、前線から激しいプレッシングを行うスタイル
RBライプツィヒの現在の快進撃を支えるのは、若手主体の激しいプレッシング戦術と、それに合ったピンポイントでの強力な補強。そしてキーとなるのが2012年に招へいした元ホッフェン・ハイム監督のラルフ・ラングニック氏。自らも現役時代があった同氏は、当時3部リーグだったホッフェンハイムの監督に2006年に就任し、わずか2年でブンデスリーガに昇格させ、1部初挑戦の08-09シーズンに前半戦を首位で折り返した立役者でもあります。
輝かしい経歴を持つラルフ・ラングニック氏ですが、ホッフェンハイムではルイス・グスタヴォを無断でバイエルンミュンヘンに移籍させたことで当時の首脳陣と衝突し、シャルケ04に移籍したものの燃え尽き症候群により同年で辞任しています。そんな彼が新たに見出したのが巨額な資本力と大いなる可能性、ビジョンを持つライプツィヒだったのでしょう。スポーツディレクターとして就任し、監督に就任、その後同じスタイルを提唱するラルフ・ハーゼンヒュットル氏をブンデス昇格後初の監督として後任に迎え、SD職に専念します。
ラルフ・ハーゼンヒュットル氏はオーストリア代表経験があり、2014-15シーズンに昇格した「FCインゴルシュタット04」を大方の予想に反して中位でフィニッシュさせ、RBライプツィヒの監督に就任。
彼の戦術はボルシア・ドルトムントのゲーゲンプレスのような、前線から激しいプレッシングを行うスタイル。ラルフ・ラングニック氏もかつての戦術に「ボール奪取から8秒以内にシュートに持ち込まなければならない」というルールなどがあり、近年のドイツサッカーの主流とも言えるスタイルで、近年番狂わせを起こしたレスターシティにも共通する戦術です。フォーメーションは基本的に4-4-2で、FWのフォルスベリ、ヴェルナー、ポウルセンといった得点力の高い選手が中盤と連携を取り、前線から激しい守備を行いインターセプトし、ゴールを奪取します。
得失点ともにブンデスリーガ全チーム中3位で、勝敗数という結果だけでなく内容でも非常に高いパフォーマンスが発揮されています。
無駄のない補強により、最短距離でブンデス1部へ
レッドブルという大型資本が入り、かつてのチェルシーやパリ・サンジェルマン、マンチェスター・シティのようなイメージを持たれることも多いRBライプツィヒですが、クラブは必ずしも即効性のありそうなスター選手を獲得するのでなく、若手主体のチーム作りを目指しているのも特徴のひとつ。
2015年には1995年生まれの新星、ダヴィー・ゼルケをブレーメンから800万ユーロで獲得しているほか、2013年にはデンマーク人のユスフ・ポウルセン、オーストリア人のマルセル・ザビツァー、2016年にはシュトゥットガルトのティモ・ヴェルナーを獲得。いづれも将来が大いにされる存在ではあるものの、世界的な知名度はない選手たちです。
移籍市場だけでなくユースの育成にも積極的で、ユース部門のトップにはマリオ・ゴメス、サミ・ケディラなどを輩出したシュトゥットガルトアカデミーのフリーダー・シュロフを就任。リザーブチームや女子のチームも合わせクラブの下部組織には17のジュニアチームがあり、約260名の選手が所属。2014-15シーズンは9つのリーグタイトルと3つのカップを勝ち取り、2015-16シーズンは8つのリーグタイトルと6のカップを獲得。潤沢な資金力で大型選手を補強する金満クラブとは異なり、長期的な成長を目指す堅実かつ現代的なクラブ経営も今後の躍進を予感させます。
保守的なドイツ内ではかなり批判を浴びている
保守的なドイツでは、レッドブルの大型資本により躍進するライプツィヒに、「サッカーを通じたマーケティング活動をするな」、「人工的に作られた歴史のないクラブ」といった批判の声も多い。現在1部昇格年で優勝する可能性すら示している同チームは国内で最も嫌われているクラブのひとつで、ブーイングや抗議、スタジアムに牛の頭部が投げ込まれるといった他チームのサポーターからの強烈な敵意も示されています。
しかし、莫大なスポンサー料を提供しているフォルクス・ワーゲンや、テレコム社、エミレーツ、バイエル薬品など、伝統的なチームも巨大企業からスポンサーを受けていることは事実で、伝統的なリーグに新たに表れた革新的なチーム経営に対する拒絶反応である側面が強いと言えるでしょう。バイエルン・ミュンヘン一強だったブンデスリーガに新たなうねりをもたらし、新しいクラブ経営を示す同クラブはドイツ国内だけではなく、海外のサッカーファン、そしてニュースでしかサッカーを見ない人たちの興味をも惹きつけられる存在になりつつあります。
現に大型のスター選手ではなく、20代前半の若い選手が活躍し、ユースでも実績が出ているところから、今まさに歴史が始まろうとしているチームです。
注目選手
躍進を続けるRBライプツィヒを支える注目選手を紹介。知名度の少ない選手ばかりなものの、実際のプレイを見るとチームの目指す戦術を深く理解し、各選手が高次元で融合した質の高いサッカーを展開しています。そして、ここに紹介する選手ばかりではなく、途中起用の選手も実力を発揮し、選手を入れ替えながら勝てているのも凄いところ。
ティーモ・ヴェルナー
World Football Young star Catalogue
1996年生まれ、ドイツ・シュトゥットガルト出身のアタッカー。2013年にトップチーム昇格し、2016年にシュトゥットガルトの2部降格により4年契約で完全移籍。力強いドリブルやシュート、冷静な判断力を始め総合力が非常に高く、「ドイツのルーニー」になると評価される逸材。
スタメンでデンマーク人のポウルセンやスウェーデン人のエミル・フォルスベリと2トップを組み、11節終了時点でチームトップの5ゴールを記録。
シュトゥットガルト時代は主力・ベテラン選手たちからの嫉妬により、好ましくない扱いを受けていたとの報道も。日本代表の酒井高徳選手が彼を非常に気にかけていたようです。
エミル・フォルスベリ
1991年生まれのスウェーデン代表のMFで、ライプツィヒでは10番をつけ、11節終了時点でティーモ・ヴェルナーとともに5ゴールを記録する期待のアタッカー。パンチ力があり高い精度のシュートとパス、前線からの守備能力も高くインターセプトもでき、攻守にわたり万能な選手。
日本代表でいうとドルトムント全盛時代の香川選手にパンチ力が加わったようなプレーヤー。
ナビー・ケイタ
1995年生まれのギニア代表のセントラルミットフィルダー。アーセナルやリヴァプールが獲得に動いていたと言われていたものの、2016年シーズンに同じ親会社であるオーストリアのFCレッドブル・ザルツブルクからクラブ史上最高額となる1500万ユーロで移籍。身長172cmと小柄ながら高い視野と驚異的なシュートセンス、ドリブル能力を持ち、瞬く間に主力選手に定着。
今年以降、サッカー界に間違いなく旋風を巻き起こすチーム
親会社の強力な資金力はありつつも、若手を主体とした堅実な補強、ユースチームの強化など、近年の金満チームにはない手法で着実にブンデスリーガへと歩みを進め、昇格年で暫定ながら首位に浮上、予想以上の成績も残しているRBライプツィヒ。特定の選手に頼ることなく、全選手が汗かき役となる戦術に若く才能あふれる選手が融合し、結果だけでなく内容でも楽しませてくれるこのチームは、間違いなく近年のバイエルン・ミュンヘン一強だったブンデスリーガに新しい流れをもたらし、今後世界的にも大きな注目を浴びていくことでしょう。
チェルシーやマンチェスター・シティが世界有数のクラブへと変貌したこれまでの歴史をまた新たな形で実現しようとしていると言え、F1を始めとしたレッドブルの様々なスポーツ分野での成功が、サッカー界に今まさに訪れようとしているのかも知れません。
2016-17シーズン試合日程 ※★は注目カード
(A)8/28 ホッフェンハイム 2 – 2(△)
(H)9/10 ボルシア・ドルトムント 1 – 0(〇)
(A)9/17 ハンブルガーSV 4-0(〇)
(H)9/21 ボルシア・メンヘングラードバッハ 1-1(△)
(A)9/25 1.FCケルン 1-1(△)
(H)9/30 FCアウグスブルク 2-1(〇)
(A)10/16 VfLヴォルフスブルク 1-0(〇)
(H)10/23 ヴェルダー・ブレーメン 3-1(〇)
(A)10/29 SVダルムシュタット 2-0(〇)
(H)11/6 FSVマインツ05 3-1(〇)
(A)11/18 バイヤー・レヴァークーゼン 3-2(〇)
(A)11/25 SCフライブルク
(H)12/3 シャルケ04
(A)12/10 FCインゴルシュタット
(H)12/17 ヘルタBSC★
(A)12/21 バイエルン・ミュンヘン★
(H)1/21 アイントラハト・フランクフルト★
(H)1/28 ホッフェンハイム
(A)2/4 ボルシア・ドルトムント★
(H)2/11 ハンブルガーSV
(A)2/18 ボルシア・メンヘングラードバッハ
(H)2/25 1.FCケルン★
(A)3/4 FCアウグスブルク
(H)3/11 VfLヴォルフスブルク
(A)3/18 ヴェルダー・ブレーメン
(H)4/1 SVダルムシュタット
(A)4/5 FSVマインツ05
(H)4/8 バイヤー・レヴァークーゼン
(H)4/15 SCフライブルク
(A)4/22 シャルケ04
(H)4/29 FCインゴルシュタット
(A)5/6 ヘルタBSC★
(H)5/13 バイエルン・ミュンヘン★
(A)5/20 アイントラハト・フランクフルト